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 【第2回】小林社長の思想強め昆虫講座

​標本を楽しめ!学術的価値?細かいことはどうでもいいんだよ

Last update: 15. June. 2026.

Text: Kazuho Kobayashi

​標本?楽しいから集めてんだよ!!

さて、皆様はなぜ標本を集めておられるのでしょうか?
きっとこのサイトに足を運んでいただいている大半の方は、多かれ少なかれ、標本を集めた/作った経験がおありではないかと思います。

もしあなたが研究者であれば、その標本は研究のために利用されることでしょう。しっかりとデータを管理し、自然科学の発展の礎にすることが、標本蒐集(しゅうしゅう)の目的に違いありません。

しかし、あなたが研究者ではなく、純粋に趣味として標本をコレクションしているのであれば、その目的は少し違ってくるはずです。あなたがコレクションする理由、それはすなわち「あなたが楽しむため」です。


もちろん、標本というのは学術的な価値を潜在的に備えているという特性をもつため、「学術的な」ルールに従い、「学術的な」楽しみ方が推奨されるのが一般的です。
しかし私には、昨今どうもその「学術」というワードがあまりにも先行し、あるいは固定観念として定着し、それが皆様の標本コレクションの「楽しみ」の部分を阻害しているように思えてならないのです。

標本なんてのは学者にとっては仕事ですが、大抵の人にとってはただの道楽です。
「学術性」が高ければ高いほど、自分はレベルの高い趣味をしている!と勘違いをされている方がいらっしゃる。しかし実際はそんなことはなく、しょせんは道楽であるわけですから、一番に優先されるべきはその趣味がいかにあなた自身を豊かにしてくれるかどうかという点なのではないでしょうか。

楽しいから集める、楽しいから継続する、それで十分じゃないですか。一度しかない人生を、楽しく謳歌するために標本を集めるのです。その感情が何より優先されるべきで、学術うんぬんなどはその次にくるべきものなのです。

ところが現実には、その「楽しさ」を奪ってしまうような固定観念が、標本の世界には少なからず存在します。

世界のコガネムシ3.jpg

ラベル作成は苦行?

皆様は標本にセットするラベルを、自信をもって書くことができますか?
採集場所などの簡単な情報ならともかく、そこにGPSの座標や、採集方法も正しく書け!(しかも英語で)なんて言われた日には、ちょっと身構えてしまいますよね。博物館にそのまま収蔵できるレベルのラベルを当たり前のように作成できる方は、実際にはそう多くないはずです。

 

「覚えないといけないお作法がたくさんあって難しい...でもやるからにはしっかり作らないと...」という、ラベル作成に対する苦手意識が、本来楽しいはずの標本蒐集ライフの足かせとなっているのです。

「ラベルはこうあるべきだ!」「ラベルがついていない標本は価値がない!」といったような、SNSやベテランコレクターから聞こえてくる第三者の声に束縛されてしまい、本来の自由な趣味としての楽しみが、知らず知らずのうちに損なわれてしまっているのではないでしょうか。

ピザくらいどデカいラベルを作れ


楽しくやっているのに苦痛を味わってしまうのは本末転倒。ならばいっそ、楽しくラベルを作ってみてはいかがでしょう?

ありがたいことに、ここ日本は昆虫大国です。昆虫の情報を集めるにはもってこいの国。 例えばこちらの丸山(2014)柿添・丸山(2021)(クリックでリンク先へ移動しますのように、きわめて親切かつ奥深くラベルの作成方法を解説した指南書が無料で読めたりします。この内容を一通り身につけられたのであれば、趣味として標本ラベルを作成するには十分なレベルのスキルが身につけられると思います。

 

それらの基本を押さえたうえで、例えば標本ラベルのデザインなんかを楽しんでみるのはいかがでしょうか?

 

 

こちらが弊社の、そして私小林が使用している標本ラベルの作製画面です。手前みそで恐縮ですが、なかなかオシャレではありませんか? ラベルのサイズ、フォント、それぞれこだわって作成したものです。ありがたいことにお客様からも「小林君のとこのラベルはかっこいいね!」とよくお声がけいただきます。

しかしこれらは、先ほど紹介した指南書で推奨されているラベルとはやや異なります。

先ほどのものが「読みやすく、無駄なスペースを使わないこと」を重視した、博物館や研究施設向けの利便性を追求したデザインであるのに対し、私がデザインしたものはサイズが一回り大きいですし、フォントもより華やかなものが使用されています。

 

それでは私のデザインが利便性に欠けているかというと、そうとは思いません。しっかり読みやすく、かつ基本的なルールをおさえた上でアレンジを楽しんでいるので何ら問題はないでしょう。 私をふくむ大半の皆さまはべつに博物館で働いているわけではありませんし、あくまで趣味で標本をやっているだけですよね。 ですので、我々はフォントやデザインを自由にアレンジし、その工程を楽しむことができるのです。

極端に言えば、通常数センチほどの小ささで作成されるべきラベルを、ピザくらいのドデカい巨大サイズで作成したとしても、それを咎める人はだれ一人として存在しないのです。さすがにたとえが極端すぎるかもしれませんが、まあそういうことなのです。

 

なたがもし博物館や大学に勤務していて、支給された標本箱を使用しているのであれば、残念ですがラベルは変に凝ったデザインにしたりせず、適切なサイズで作成してください。 やはりどこの組織にも決められた予算というものがありますからね。1頭につき毎度どデカいラベルを作っていたらスペースを無限に消費してしまいます。

 

しかし個人で趣味としてやられているのであれば、なにをやろうがそれはあなたの自由です。 標本箱のサイズなど、たかが知れています。スペースが足りなければそれはあなたの懐事情と相談のうえ、追加すればいいだけの話なのです。 「世界一巨大な標本ラベルを作ってみた!」ってタイトルで、カーペットくらい大きなラベルを作ってYouTubeに投稿してみてもいいんじゃないでしょうか?誰も怒る人はいませんよ。

 

 

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種名をラベルに書くときも、利便性を考えるのであれば、見やすいフォントで綺麗に印刷されたものがよいでしょう。しかし私はあえて、それを理解したうえで手書き(しかも筆記体)で書いています。

 

手書きで書く理由はただ一つ、「かっこいいから」です。

これがあまりにも汚い文字で何がなんだか読めない文字でしたら問題ですが、私はいちおう大学の時から筆記体をそれなりに練習してきましたので、筆記体が読める人にとっては全く解読は難しくないかと思います。

 

これもまた、ただ「かっこいいから」という理由で読みにくい文字を書くな!と、頭の固い意識高い系の研究者からは言われてしまいそうですね。しかし欧州の博物館で調査をしたり、勤務されたことある方ならおわかりいただけると思いますが、標本のラベルが筆記体で書かれているというのは日常茶飯事なわけです。今はAIで解読もできますし、わからなければ筆記体を読める人間に聞けばいいだけのこと。

 

ピザほど巨大なラベルを本当に作るかどうかはさておき、好きなデザインで、フォントで、好きなように遊んでみる。それこそが趣味として昆虫標本を楽しむコツなのではないでしょうか。

​オサムシの例

もう一つ、似たような例を挙げてみましょうか。
よくオサムシやマイマイカブリなどの昆虫は、脚を折りたたんだ、コンパクトな状態で展足されます。

しかしこれは個人的な主観ですが、オサムシはそのスラっとした脚が魅力だと思うのです。


スレンダーなボディに、細長く美しい華奢な脚。弊社のオサムシ類の標本は、その魅力を引き出すためにあえて脚を伸ばした状態で展脚しています。

「オサムシ類は脚が長いので、脚を広げるとスペースをとるから良くない!!」なんて言われる方がたまにいらっしゃいます。
別にケンカを売ってるわけではないのですが、私からしてみれば正直意味がわかりません。意識が高いにもほどがあるんじゃないの?ってのが、素直な感想ですね。


「脚を広げるとスペースをとるからよくない」、のであれば、これもまた「新しい標本箱を買い足してスペースを確保すればいいだけの話じゃん」、と思うわけです。別に車を一台買い足すわけじゃないですし、趣味程度でしたらそんな展足のスタイルごときで家の居住空間を圧迫するような事態にはなりませんよ。

もちろん、畳んだ姿もそれはそれで美しさがあります。しかし、オサムシは脚を畳まなければならない、という固定観念を打ち破ると、もっと視覚的に楽しむ選択肢が増えると思うのです。

「正しい展足」だけを追い求めるのではなく、「自分が一番美しいと思う姿」で残してみる。それもまた、趣味として標本を楽しむ一つの方法なのではないでしょうか。

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​一般的な脚を縮めた展足(左)と、脚を伸ばした展足(右)の比較。どちらが良いかは、お好みで!

アニメのカードを標本箱にぶち込め!

私が指導している生徒には以前、なんとアニメのカードを標本箱にぶち込んだ生徒がいました。

スーパーのお菓子売り場で売っているカード付きウエハースを学科の授業の間に開封し、その場のノリで標本箱の中へ。
まあなんともアホといいますか、当たり前ですがそのカードと中に入っている標本は、1ミリも関係ありません。カードが何か役に立つわけでもなく、ただただ標本箱のスペースを圧迫しているだけのムダな存在です。

ここでもしその彼が博物館に勤務する人間であるとして、その標本箱が博物館の予算で支給されたものであるならば、彼はカードを入れるなどいう行為は慎むべきです。研究のために予算が組まれて購入された標本箱ですから、標本を入れるという本来の用途以外では使用されるべきではないですね。

しかし今回のケースは別です。標本箱は彼が自費で購入した私物なので、その標本箱を煮ようが焼こうが、それは彼の自由なのです。


おそらく彼は「カードいれたらなんかおもれーじゃん笑」くらいのノリで、なにも後先考えずに入れたのだと思います。しかしそれが正解なのです!!コレクションというのはあくまで趣味ですから、本人が一番楽しくなる行動をとるのが正解なのです!


「なんで標本箱に関係ないカードなんていれるの...?」と思った方、それ、固定観念にとらわれてませんか?
標本箱に標本しかいれてはいけない、などというルールはどこの誰が作ったのでしょうか?あなたはなぜそのルールに縛られてしまっているのでしょうか?


「その場のノリでもいいから、楽しければ正解」なのです。

きっと今は何の意味も持たない標本箱の中のカードですが、それも10年後には思い出に代わっているはずです。
10年後に、「なんであの時、こんなカード標本箱のなかに入れたんだよ笑ふざけすぎww」みたいな感じで、そのときちょっと一笑いできれば、それで十分じゃありませんか。

標本箱は昆虫を保存するだけのものではありません。当時の記憶を残しておくための、素晴らしいアルバムにもなり得るのですよ。

趣味を楽しむって、本来こんな感じで自由にあるべきです。「標本箱とはこうあるべき~」みたいなウンチクを早口で語ってる意識高い系の研究者かぶれより、彼の方がよっぽど趣味と楽しく向き合っている気がしてなりません。

 

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これは有名な昆虫学者...ではなく、サングラスをかけなぜか上裸で展足をしている元生徒Y。あまりにもアホみたいな恰好で意味がわからすぎで面白いので、なんとなく印刷して標本箱にぶち込んでみました。理由はなんとなくオモロいから。それだけです。

​コンビニのレシートも標本箱へ

「「標本箱はアートキャンバスだ!」」

以前BRUTUS珍奇昆虫2にてイタリアへロケへ行った際、現地のコレクターであるプランディー氏から、こんな言葉をいただきました。標本箱をアートキャンバスに見立て、装飾にもこだわる。標本を入れて、それでおしまい!な、一般的な日本のコレクターにはあまり見られない発想です。


私はそこから転じて、標本箱を「思い出アルバム」のように使用しています。例えば標本箱にいれる内容物は、なにも昆虫標本に限る必要はありません。現地での写真を添えたり、落ちていた枝や草をディスプレイして、目に飛び込んでくる視覚情報を増やしてあげるのもよいでしょう。
さらにはその旅先で買ったお土産のキーホルダーや、途中立ち寄った道の駅で買いものをした際のレシートなんかでもよいと思います。いつもなら捨ててしまうはずのレシートでも、あとで見返すとなかなか味わい深いものですよ。


「あの時の採集、暑かったな~~~...途中立ち寄ったあそこで食べたアイス、うまかったよな~~~!」と、あとで標本箱を見返したときに思い出すことでしょう。


旅の思い出は標本のみにあらず。標本箱に何を入れるも、あなたの自由です。

標本は研究のためだけに存在するものではありません。楽しかった旅の記憶や、その時々の思い出を閉じ込めておくための箱でもあるのです。

あまりにも形骸化した標本コレクションのやり方を見直し、もっと楽しめる方法を模索する。

今年の夏は、そんな楽しみ方にトライしてみてはいかがでしょうか。

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