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Deyrolle

(France /Paris)

​19世紀から続く、フランスの老舗標本・剥製の販売ショップ。現在まで続く伝統ある店舗内には所せましと大型動物や昆虫の標本が立ち並び、博物館...いや、ヨーロッパの貴族の邸宅のような佇まいを感じさせられる。



 読み方はデロールでもデイロールでもなく「ディホォ"rル」が正しい。フランス語の「r」は日本語の発音にはなく、ヨーロッパの大陸諸国に共通してみられる喉の奥を鳴らすような発音なのでカタカナで表しにくいが、むりやりカタカナで表せば「ディホォル」が一番近い表記だと思う。

 しばしばDeyrollに献名された種を見つけるが、フランス人の研究者に「デイロール」と発音しても全く通じないし(今のところ経験上100%通じてない)、逆に英語圏の人に「ディホォル」と言ってもサッパリ通じなくて終いには「これはデイ/ロールって発音するんだぜ!」となぜかフランスに縁もゆかりもないイギリス人研究者にフランス語を矯正される始末。ちなみに、今森光彦著「好奇心の部屋デロール」(福音館書店)では「デロール」となっているが、日本人向けにわかりやすくしているからだろうか?

 さて、話が反れたがDeyrollの店舗はパリ市内のセーヌ川に面したオルセー美術館で有名なオルセーから徒歩10分程度で着く。高級レストランやショップも立ち並ぶ歴史あるストリートに堂々と聳え立つ。1831年創業の歴史あるショップであり、現在のショップの入口は若干の狭さを感じるものの、階段を上がって奥に広がる店内を散策するとまるで博物館の様に大型哺乳類から甲虫まで様々な剥製や標本が我々を出迎えてくれる。こと昆虫においては、現在数百を数える引き出しが存在し、どれも購入可能である。

 

 実はこのDeyrolle、私を含め現在の様子しか知らない人間にとっては想像できないのだが、2008年に火災により店頭のかなりの部分が被害に遭い、昆虫においては1831年の創設以来築き上げてきた歴史的価値のある標本はほぼすべて焼失してしまった。それを静かに裏付けるように、実際に現在店頭に並ぶ虫に付属するラベルはどれも比較的新しく、古いものがあまり見当たらない。店舗の標本が焼失した際には多くのコレクターや業者がそれを残念に思い、コレクションを寄贈したという話も聞いた。事件から10年以上が過ぎ、綺麗になった現在からは想像もつかない悲惨な事件ではあるが、我が国では愛媛大学におられた甲虫研究学者の故永井先生が自宅に保管していた標本の大部分を火災によって失ったように、コレクターと火災というのは切っても切れぬ関係にあるのかもしれない。

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 Deyrolleはコレクター向けのショップではなく、どちらかといえばビギナー向けのショップであるので所謂珍品などの販売は行っていない。しかしこの店名が刻まれたラベルは一種のブランドというか、所持することはステータスになるのではないだろうか。「パリのDeyrolleで買った」というのは「パリのCHANEL本店で買い物をした」という感じで自慢できる...と願いたいが果たして...

​Deyrolleは高級ブランドショップ街に立ち並ぶ。紙袋もブランドアイテムを購入したような高級感があるが、入っているのはただの虫の死骸である。

Deyrolleで購入した標本。付属で付いてきた店頭で使用する値札をディスプレイラベルとして使ってみたが、なかなかかっこよくきまっていて満足。

​店内は撮影禁止。掲載写真は許可を得て撮影しております。

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