優れた標本商とは?代表・小林の所感
- Hanataki

- 2025年12月27日
- 読了時間: 10分
更新日:2025年12月30日
■年末のご挨拶に代えて
平素より大変お世話になっております。
標本商花滝代表の小林でございます。
早いもので、本年も残すところあとわずかとなりました。
本年も多くのお客様に当店をご利用いただき、心より御礼申し上げます。
年末という節目にあたり、今回は花滝として、そして一人の標本コレクターとしての私自身の所感を、少し長めではありますが、コラムという形でまとめてみました。
この文章を読まれている皆様は、おそらくすでに相応に昆虫や標本に傾倒されている方かと思います。そうした方々に向けて、できるだけ正直に、ラフに書きあげました。
年末年始の手すさびにでも、お付き合いいただけましたら幸いです。
■コレクションという基盤
以下に掲載している写真は、今秋以降およそ4か月のあいだに、当店のコレクションとして蒐集(しゅうしゅう)した標本の一部です。
写っているものはごく一部で、ほかにも各種カブトムシ類、チョウ類など、多様な標本を新たに当店のコレクションとして迎え入れました。

今年9月~12月のコレクションハイライト
■117㎜(口吻計測)のレコード越え?巨大ナンベイオオタガメ
■ボルネオに生息する「生きた化石」、世界最大のゴミダマPheugomius borneensis
■南米最大のカマキリ、コロンビア産のMacromantis sp.
■兵庫県にて得られた放虫極太ホペイオオクワガタ
■講師を務める専門学校の生徒が飼育したフォルスターフタマタクワガタ
...等多数
花滝では販売用標本の仕入れとは別に、展示や研究用途を目的とした標本をあくまで「コレクション」として積極的に蒐集しています。
これらの標本は「BRUTUS」珍奇昆虫特集をはじめとする各種書籍、また本年では国営昭和記念公園、六本木ヒルズなどの展示会でも使用されました。
毎年コレクション用として〇〇〇万円規模の標本を購入しており、これは決して軽い投資ではありません。
正直な話、これらをすべて販売に回せば、短期的な利益はもっと出るでしょう。
それでも当店がコレクションを手元に残すのは、標本商という立場にある以上、販売者自身が「本物の標本」を見続けていなければならないと考えているからです。
良い標本を扱うためには、まず良い標本に囲まれている必要があります。これは感覚論ではなく、経験則です。
■優れた標本商とは何か
さて、「優れた標本商」とは何でしょうか。
多くの方にとっては、「良い標本を提供してくれること」が第一条件かと思います。
もちろんそれは大前提です。
ただし私は、それだけでは不十分だと考えております。
花滝では代表である私小林をはじめ、作家の福井、スタッフに至るまで、全員が生粋の蒐集家(コレクター)です。
標本の仕入れ、作製、値付け、販売——これらすべての工程には、単なる知識ではなく「判断力」が求められます。
その判断力は、図鑑を読んだだけでは身につきません。
自分で買い、悩み、時には失敗し、標本箱を前に唸る——そうした経験の積み重ねによってのみ培われるものだと思っています。
現在、花滝では多数の標本を所蔵しています。
特にカブトムシ類については、標本箱のサイズが統一されていないため正確な数ではありませんが、およそ100箱近くにのぼります。
そのほか、クワガタムシ、雑昆虫、近年では鱗翅目、化石標本、さらにはチャンネル登録者数100万人を超える人気YouTuber・ちゃんねる鰐様の動画でも紹介された巨大ダイオウサソリなどの奇虫など、蒐集分野は多岐にわたります。

■お金を頂くという責任
当店では安価な用品から高額標本まで、幅広い商品を取り扱っています。
なかには、一点の標本に対して50万円、あるいは100万円をお支払いくださるお客様もいらっしゃいます。
言うまでもありませんが、100万円という金額は、日常生活ではそう頻繁に動くものではありません。せいぜい冠婚葬祭や、学費や車の購入の時くらいでしょうか?
その金額を、当店の標本に対して支払っていただくということは、単に「欲しい」だけでなく、「信頼」していただいた結果だと受け止めています。
だからこそ販売者側にはそれ相応の責任が生じます。
私自身も、価値が見合うと判断した標本であれば高額であっても購入します。
100万円というワードが出てきましたが、実際には金額の大小にかかわらず、自分がその価格で「欲しい」と思えないものを、人に勧めることはできません。
買う側の感覚を失わないことは、標本商として非常に重要だと考えています。
■販売者は責任をもって勉強し、コレクションすべし
ありがたいことに、私はこれまで三度カブトムシ・クワガタ専門誌「ビークワ」にて巻頭図鑑を執筆する機会を頂戴してきました。
最初の執筆はゾウカブト図鑑で、依頼をいただいたのは、私がまだ大学に入学する前、浪人時代の頃でした。
当時、偶然むし社へ立ち寄った際に、現社長の飯島様から
「小林くん、今度ゾウカブト図鑑書かない?」
と店頭で声をかけていただいたのがきっかけです。
「ビークワ」の巻頭図鑑を執筆する人物の選定基準は明確で、「知識」と「コレクション」の両方を備えているかどうかです。
研究成果を読者に伝える以上、実物を見て、所持し、理解していることが前提となります。
その後、二度同様の執筆依頼をいただきました。
これは、虫のプロフェッショナルが集うむし社の皆様に、私のコレクションと知識を評価していただいた結果だと受け止めています。
この積み重ねてきた信用と実績こそが、私自身、そして花滝の根幹です。
だからこそ、この「信用」を失うことだけはあってはならない。その緊張感を常に持って標本を扱っているのです。
■学術と趣味の狭間にある標本蒐集文化
昆虫標本蒐集は、学術と趣味が表裏一体となった、非常に特殊な文化です。
標本には必ずラベル(データ)が付属し、その信憑性が価値を大きく左右します。
学術的価値が価格に影響する以上、標本商には相応の学術的リテラシーが求められます。
私自身はまだまだ未熟な20代駆け出しの、言うまでもなく浅学の身だということは自覚しております。
諸先輩方とお話するたびに自身の無知を痛感し、さらなる勉強に勤しまなければと、焦燥感に駆り立てられる次第です。
今年も様々な先生方、知人、そして勤務先である専門学校の生徒からも、たくさん学ぶことがありました。
日々ご指導いただいている皆様には感謝してもしきれません。
私は高校時代、昆虫学の本場であるイギリスの大学への進学を決意しました。
大学合格後は生物学を専攻し、在学中にはマックス・バークレー主任学芸員をはじめ、ロンドンの大英自然史博物館の皆様にたびたびお世話になりました。
近年では専門学校で昆虫学基礎や、アカデミックライティングを教える一方、研究活動も継続しています。
本年もクワガタムシの新種記載論文を発表するなど、可能な限り学術活動を続けています。
このように、日頃から学術的知見を得るために尽力しています。
知識なしに、お客様へ確かな品など提供できるはずがありません。
■「できて当たり前」の話
標本商という仕事は、特に当店の場合、海外ディーラーとの取引が不可欠です。
そのため英語を使えることは必須最低条件となります。
「英語ができて当たり前」と言うと、いささか鼻につくかもしれません。
しかしこれは、「寿司屋の大将が寿司を握れる」のと同じようなもので、あくまで良い標本を扱うための前提条件に過ぎません。
同様に、扱う昆虫を熟知していることも当然です。
もっとも昆虫はこの世に100万種も存在すると言われており、どれだけ勉強しても終わりはありません。
私の専門はカブトムシですが、クワガタ、その他昆虫、最近ではチョウ類などについても、時間の許す限り学ぶ努力をしています。
■責任を負うということ
ここまで書くと、私がずいぶんと勉強熱心な人間のように見えるかもしれません。
あるいは、耳当たりのよい経歴を並べた、いけ好かない人間とでも思われるでしょうか。
しかし実際のところ、これらは昆虫学者や、昆虫を生業とする多くの方々にとって、ごく当たり前のことなのです。
英語を話すこと。
研究すること。
論文を書くこと。
これらは私のような標本商という立場の人間にとって、特別褒められるようなことではありません。
では、なぜそれが当たり前なのか。
答えはいたってシンプルです。
お客様の大切なお金と引き換えに、標本をご提供する。
その対価を受け取る以上、勉強し、責任を負うのは当然のことだからです。
「よくわからないけれど、なんとなくレアそうだから〇〇〇円で」
...そうした根拠のない価格設定で、大切なお金をいただくのは、あまりにも無責任ではないでしょうか。
お客様から大切なお金を頂戴するわけですから、そのためには販売者側はあらゆる努力をする義務があります。
もちろん100万種すべての昆虫を熟知することは不可能ですが、それでも販売者として、日々学び続ける姿勢を持つことは、最低限の責任だと考えています。
■仕事の原動力
本日は12月27日。
一般的には仕事納めの時期ですが、私にはあまりその感覚がありません。
朝でも夜中でも、365日24時間、常に標本のことを考えているからです。
時差のあるヨーロッパのディーラーには、「良い出物があれば、日本が深夜でも構わないので電話でたたき起こしてほしい!!」と伝えています。
なぜそこまでやるのか、理由は単純です。
虫が好きで、標本が欲しいから。
この欲求こそが、私のすべての原動力です。
よく「お客様の笑顔が第一」という言葉を耳にします。
それは確かに正しく、極めて重要なポリシーでしょう。
ただ、私の場合は少し順番が違います。
まず、自分が本気で欲しいと思える標本を追い続ける。
そして採算が合うかどうかに関わらず積極的に各地へ足を運ぶ。
その結果として、良い標本が集まり、お客様へ還元される。
この順番です。
■採算度外視の先にあるもの
現在、私は年に二度ほどヨーロッパへ買い付けに出向いています。
正直に言えば、金銭的には決して効率の良い行為ではありません。円安の影響もあり、毎回赤字のリスクを背負っています。
普段から為替相場に注目されている方ならおわかりいただけると思いますが、昨今のユーロやポンドの上昇には目を覆いたくなります...。
向こうへ行くとなるとやはり一週間くらいの行程になり、滞在が一日増えるだけでも、それだけでかなりの出費を強いられるわけです。
それでもわざわざ行くのは、ヨーロッパには日本市場には出回らない年代物や、希少な産地・種の標本が眠っている可能性があるからです。
特にカブトムシ類に関しては、日本とは比較にならない質のコレクションが存在します。
しかしそこで得た標本のすべてを花滝のコレクションにするわけではありません。
即売会やオークションで当店の出品物をご覧いただいている方はご存知の通り、そこから多くの標本をお客様へお届けしてきました。
■標本商としての高みを目指して
第一線で活躍されている一流の標本商の諸先輩方も、皆同じです。
最も良い標本は、コレクションとして手元に残されています。
都内で親子二代にわたり営まれている老舗標本商が、博物館顔負けの2フロアに及ぶ巨大コレクションを所持していること。
インドシナの昆虫に精通した大先輩のクワガタ研究者の標本商が、「一種一箱」をコンセプトに蒐集していること。
福島県に、研究者として当時世界最大規模のカブトムシコレクションを築いた標本商の方がいらしたこと。
これらはすべて、「優れた標本商とは何か」を物語っているのではないでしょうか。
売り手がコレクションを蒐集するという行為は、それだけ資金が拘束され、販売して利益を得る機会を失うということでもあります。
ビジネス的に見れば、最悪の選択と言えるかもしれません。
しかし、標本商として高みを目指すのであれば、避けては通れない道でもあります。
圧倒的なコレクション、知識、経験を積んでこそ、お客様へ「良い標本」をご提供できるのです。
■ご挨拶
花滝は来年も、探求心と行動力を武器に、標本を蒐集し、提供してまいります。
まだまだ至らぬ点も多いかと思いますが、お気づきの点がございましたら、ぜひご指摘ください。
それでは、どうぞ良い年末をお過ごしください。
来年も何卒よろしくお願い申し上げます。
標本商 花滝
代表 小林

今年はロンドン・リンネ協会、大英自然史博物館などに取材に行ってきました。来年は新たな書籍の刊行、そして数々のイベント等で皆様にご満足いただける企画をご提供して参ります。直近では東京・表参道にてとあるイベントの開催が決定しております。詳細をお待ちいただけますと幸いです。



