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展脚型について考えてみる


 展足の型というのは人それぞれオリジナリティがあり、各々のセンスが問われる「芸術」である。その作成方法や手順は人によって異なるので、本頁では作成手順について一から十まで説明するつもりはない。なんだよ!「展足のコツとか解説とかしてくれねーのかよ!?」と思われるかもしれないが、それに関しては偉大な先人たちが様々な媒体で丁寧に説明されているので、そちらを参考にしてほしい。特にBE-KUWA32号の「綺麗な標本のつくり方」や、ミヤマクワガタの研究家のJIN氏のウェブサイトJinlabo Operation "Lucanus"は大変参考になるので、一読しておく事を強くお勧めする。

 

JIN氏のウェブサイト Jinlabo Operation "Lucanus"  (https://jinlabo.jp/) 

展足型とは?

 

 私が「展足型」というのをしっかりと意識しだしたのはBE-KUWA32号、編集長土屋氏による「きれいな標本のつくり方」を読んだことがきっかけだったと思う。この講座は数回にわたって連載されたわけだが、詳細な展足方法を解説した記事は私にとって衝撃的な内容であり、今読み返しても基本的なことから実用的な小技まで記されている傑作であると思う。

 しかしよく考えてみれば、「展足」そのもの自体を意識し始めたのは、小さいころに虫研の吉田氏が執筆された「原色原寸クワガタムシ・カブトムシ大図鑑(成美堂出版)」を見て「これは足がだらんと伸びきっていてカッコいい」「これはカッコよくない」と子供ながらに思ったことが最初かもしれない(吉田氏本人による展足は足を比較的引いた状態で作成し、ボディを強調させる大変美しい理想的な型である。しかし中には恐らく氏以外が作成したと思われる独特な展足のものもいくつか掲載されていた)。


 展足型には様々な種類があると思うが、ここでは特に管理人が現在取り入れているスタイルの展足型について説明する。なお、クワガタやカブトムシに関しては大きく分けて2つのタイプに区分出来ると思うので、それぞれのタイプについて記した。
 

展脚型その1. 日本式展足

 

 日本式展足というのはいわゆる我々がよく図鑑や即売会で見かける最もポピュラーな型であり、特徴としては符節をまっすぐに伸ばし、垂直に立てる。後述する欧州の書籍や博物館でよくみられる符節を寝かせるタイプの「ユーロ式」と区別するためにこのような名前で扱った。

カブトムシの展脚
  カブトムシはクワガタに比べ体幅があるためガッシリとした体躯に見える。そのためカブトムシを作成する際は爪をある程度開いて作成するとカッコよく、むし社店長の飯島さんが作成されるような展足を理想として練習した。こだわりとしては後ろ足脛節の内側面を上翅に密着させることでカブトムシの縦に短い重圧感を演出したり、前胸と上翅のスペースを見苦しくない程度に詰めることで球体のようなコンパクト感を出している。ゾウカブト種やアジアの大~中型カブトムシは符節を真っすぐに伸ばすと美しい仕上がりになる。
 

図1. 当サイト管理人によるカブトムシの展足例(アヌビスゾウカブト)
画像はM. Prandi氏提供。Prandi, Paschoal, and Vaz-De-Mello, (2020)の Revision of the Megasoma (Megasoma) gyas (Jablonsky in Herbst, 1785) species group (Coleoptera, Scarabaeidae, Dynastinae) より

クワガタの展脚

 ここ最近、クワガタにおけるスタンダードな展脚型に見られる特徴として、爪をかなり閉じ気味に作成する傾向がみられる。大図鑑やBE-KUWAなど、昔からある書籍を見ると藤田氏の安定感のある型や鈴村氏の迫力ある展脚を見る事が出来るが、それらは比較的爪が開き気味に作られている。それらに対して、最近では芸術家の福井氏や標本商Insequestの前田氏などの影響があってだろうか?爪をかなり閉じ気味に作成している作例が人気であるのをSNS上でもよく見かける。
 この展足型は爪を開かないぶん作成時間の短縮にもなるし、すらっとした細身のクワガタにはとてもよく似合う。私は開き気味も閉じ気味もどちらも好きなので、標本のコンディションや個体によって変えているが、基本的には開いてるとも閉じてるとも言えない中間の絶妙な開き具合で作成するように心がけている。
 

​図2. 当サイト管理人によるクワガタの展脚例(ノコギリクワガタ)

その他甲虫の展脚
 特に多くこだわりはないものの、その基本的にはその標本にどのような展足を施したら最もかっこよく仕上がるだろうか?という事を念頭に置きながら作成している。

 例えば脚の長い大型カミキリムシであれば不自然にならない程度で足を広げた方が迫力が出るし、逆に体が太く短い脚のコガネムシであれば脚を縮こませてボディを強調した方が良い。展足で有名な福井氏が展足を手掛けた「とんでもない甲虫(幻冬舎)」には数々の作例が載っているので、これを手本に作成してみる事が上達への最短ルートかもしれない。

展脚型その2. ユーロ式展足


 日本式が脚をしっかりと伸ばして作るのに対して、足を丸めて展足する事をしばしばコレクター間ではユーロ(式)展脚と呼ぶ。これは欧州の博物館や図鑑には脚を伸ばして整形していない物が多くみられる事から、この呼び名がついたのだと思う。

 ユーロ展は日本式だと無理に脚や触角を伸ばすため、軟化が甘いと標本を壊してしまう可能性があったり、また足を伸ばしているためスペースを食う反面そのようなことはない。

 私のコレクションでは種によって日本式かユーロ式かをわけている。大型の甲虫、ゾウカブトやゴライスオオツノハナムグリを作成する際には、以前は日式で行っていたものの、現在では1つ残らず全てユーロ式で作成している。

 例えばゴライアスを例にとってみると、本グループは極めて長い脚を持つため、日式の足を伸ばした展足では相当なスペースを食い、また衝撃を受けた際の破損の危険性も高まる。また、ゴライアスの中でもカシクス(Goliathus cacicu)やレギウス(Goliathus regius)など、上翅が美しい種類に関しては極力針を刺すのを嫌がるコレクターもいるので、自身のコレクションにも刺さないようにしている。しかしそうなると、針を刺さずに日式展の標本を標本箱内に固定するには周りをいくつもの針で固めなければならないし、場合によっては腹部の下に固定用のクッションを敷く必要性も生じる。対してユーロ展では、脚6本全てが地面に着地しているので、符節から脛節にかけて自重を分散しながら着地しているため極めて安定感があり、上翅に針をささずともよい。

 私は全ての脚の、可能な限り広い面積がしっかりとぺフに密着している事が安定感を増し破損リスクの軽減につながると思っている。そのために、展脚をする際には腹部の下に台紙や厚紙を2枚程挟み、腹部下に少しスペースが出来るように展脚している。これを行う事により、後でデータラベルや同定ラベルをセットした際にその厚みで脚や体が浮くという問題を防げる。また、ゾウカブトやゴライスは僅かではあるが立体感が増し、厚みのある風貌に仕上がるという利点もある。

​図3. 当サイト管理人によるユーロ式の展脚例(左: フジタゾウカブト、右: コガシラクワガタ)


展脚の最短上達法とは...


  展足というのは誰かに教わるものではなく、目で見て盗むものである…と思う。私にも展足の師匠と仰ぐ方がいるが、その方は私に特に何も教えてくれなかった(こちらから聞いていないというのもあるのだが)。しかしその師匠の美しい展脚を間近に見ているうちに目が肥えてきたので、最近ではようやく自分の理想に近い形の展脚ができるようになってきたと思う。

 1000頭も作り終わる事にはそれなりに上達しているはずなので、まずは時間をかけて練習回数をこなしてみてほしい...こんなことを言うと「寿司屋の修行じゃねーんだぞ?」なんて言われてしまいそうだが、やはり上達のカギは数をこなすことにあり。多様性に富む甲虫の展足は種類や作成者ごとに最も美しく見せる展脚の「解」が異なるため、とにかく実践あるのみである!

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