JUVISY

(フランス/パリ)

​9月のパリの祭典、ジュビジー国際昆虫標本即売会はヨーロッパ最大規模の即売会。規模は大手町のフェアに勝るとも劣らない、1年で一番熱いインセクトフェア。

【最新情報】新型コロナウィルスの影響により2019年より開催中止。2022年より復活予定。
 

 フランスのパリ郊外に位置する閑静な町「ジュビジー」にて開催される事から、標本屋からはジュビジーの愛称で親しまれている。

 

 欧州で最も大きいフェアと言えばこちらのジュビジーとドイツのフランクフルトのフェアがあるが、私の体感だとジュビジーの方が恐らく標本数で比べるとわずかに多いのではないかと思う。大手町と比較するのは1業者あたりが持ち込む標本量が異なるし、卓の広さも全く異なるので一概にはどちらが大きいかとは言い難いが、とにかく大きなフェアであることは確かだ。
 

それだけに日本からも毎年標本業界の所謂重鎮というか、欧州に出張してまで集めたいという意思の強い有名コレクターが集まる。私は交流はないものの、欧州のミヤマに精通されているB氏や、蝶屋で日本のフェアの主催者であるS氏など名のあるコレクターの方々を度々お目にかける。お世話になっている方々だと大型甲虫に関しては日本でこの方の右に出る者はいないと思われるF氏や、運営にも関与するメンバーでもあるパイネのT&K M.氏など、世界中からそうしたそうそうたる熱意を持つコレクターが集う活気あふれるフェアだ。

​会場付近のジュビジーの街中にはいたるところにフェアの広告が出ている。それだけ影響力の大きな即売会ということだろう。

 フランスでの開催の為、基本的に出展業者はフランス人が多い。その為出店されている標本はリヨンと傾向が似ており、アフリカの虫やフレンチギアナの虫が多い。中には古くから標本商として活躍されている方もいるので、そうした方々の卓の箱の中には例えば19世紀に活躍し、一個人で大英自然史博物館やパリ国立博物館と肩を並べるレベルのコレクションを築き上げた伝説の標本商ル・ムールトのオリジナルラベルがついた標本や、500万点を超える標本を集めた甲虫学者オーベルチュールの標本など、歴史的な標本が何気なく入っていたりするのが驚きだ。

​ご高齢のコレクターによる放出品。コンディションはよくないが、たまにとても古い著名な研究者の同定ラベルがついている標本も目にする。

 これから記すことは本項トップページにも記したが、ジュビジーでも目を見張るような大型のサイズの標本というのはまず並ばないので、はっきり言ってサイズを求めるタイプの大型標本コレクターには向かない。しかしその反面、出店業者は研究者が多く、自身で採集したものを販売するケースが多い。例えば中南米のコガネムシが好きな人間であれば、このフェアの主催者でもあるアーナウド氏はかつて自身で南米にて採集したものを多数記載し、その研究に使用した標本の販売を行っていたりするので、その筋のマニアにとっては集めるのにこれとない機会である(氏の友人であるマリー氏や故スーラ氏などフランスのコガネムシ研究の権威のコレクションも委託販売しているので、本気で集めようと思った人間が欧州のフェアまで出向く理由はこういう部分にある)。

​オーストラリアのコガネムシ。コレクターというよりは研究家向けな感じがするひと箱だ。

 会場の通路は広く、大手町の様に人ごみで立ち往生する・・・なんて事は断じてないので極めて快適である。受付にて軽食やアルコールなども販売しているため、日本の様にきちっとした厳格なルールの下で行われる「即売会」というよりは、虫好きオヤジ共の1年に1回の交流会のような和気あいあいとした緩い雰囲気が漂うのがいいところだ。タバコを吸いたくなったら会場横のスペースで勝手に吸い、ビールが飲みたくなれば自身の卓を放置して知人の卓で一杯やる、なんてことも許される空間だ(購入者からすれば店主不在なのはいい迷惑ではあるが)。

 

 例えば昨年のフェアで言えば、まだ閉場まで時間があるのに、イタリアの研究者M氏が勝手に友人の卓に乗り込み、標本をどかしてその場で持参のチーズを切り始め、ワインと共に周りの人々と共に宴会を始めたことには笑ってしまった。主催者のアーナウド氏はサプライズでお祝いされ、1日中背中に風船を括りつけられたまま会場を歩いていたし、なんとなく欧州独特のノリだなぁ…というのを感じ取れる場所でもある。

​広い通路は羨ましい限りである。日本の大規模フェアではこのようなスペースをとれない会場が多く、通行にも一苦労してしまう経験は誰もが一度はしたことだろう。

​値段が全くついていない標本箱もかなり多い。このような標本は店主と駆け引きをうまいことしないといけないので、しっかりと見極める能力も必要である。しかし時には売り物ではないと言われたり、1箱まるごと買ってくれなければ売らないと言われたり、なんともユルい感じのフェアだ。

​一応週数ながら生体も少販売している業者がいる。しかしそれにしてもアクティオンゾウカブトの蛹なんてデリケートなものを堂々と販売して大丈夫なのだろうか...?ブリードも嗜む立場の人間から言わせてもらえば、この時期に乱雑に扱うのは殺してしまうのと同じようなものだと思うのだが...いろいろと異文化を味わえる。

​規模が大きいフェアであることは確かだが、クワガタはほぼ普通種か、研究者向けの小型種のどちらかしかない印象だ。

周辺・観光情報


 会場はパリ市内からは30分ほどでアクセス可能、最寄り駅からも徒歩10分なので比較的便利だ。しかし電車でジュビジー駅に行くまでの間には治安の悪い場所もあり、特に夜のRERのC線は人が見ている前でのスリや強奪が日常茶飯事なので注意してほしい。電車内はスプレーの落書きが施され、まあなんというか・・・映画に出てくるような感じの雰囲気である。最寄りのジュビジー駅も数年前に駅舎がリニューアルされるまでは雰囲気が悪く、実際に私も自動改札をジャンプで飛び越える若者を見かけたし、私が改札を出る際に小さな女の子にピッタリと後ろを着かれ、無銭乗車された経験がある。大改修が済んだ現在のジュビジー駅は非常に綺麗で治安もよくなったが、油断は禁物である。


 もう一つ気を付けるべきことを挙げるとすれば、会場のトイレには注意した方がいい。日本人では耐えきれないレベルの想像を絶する汚さで、用を足したくなった際には近くのスーパーかホテルのものを利用するしかない(まあ人によるかもしれないが、少なくとも私はあの場のトイレは使用できない)。周囲は完全な住宅地で気軽に利用できる公衆トイレはないため、あらかじめトイレ対策をしたうえでフェアに望まれる事を強く推奨する。


 前述の通りパリ市内からのアクセスが良いため、宿泊地は市内にとって当日の朝に会場に向かうのがいいだろう。しかし筋金入りのコレクターは前日からジュビジー駅周辺の宿(2か所ある)に宿泊する。おかげで当日の朝食会場は、いかにも虫をやってそうな人間で占拠されるのだ…

​この時期のパリは秋真っ盛り、紅葉がとても美しい観光にベストなシーズンだ。街を歩いているだけで楽しい。

​有名なノートルダム大聖堂は、RER-C線上のフェア会場へ向かう途中にある。

​駅の電光掲示板に表示された「Juvisy」の文字を見ると胸が高鳴る。何回出撃を重ねようとも、フェア前のドキドキ感が薄れることは全くない。

​昆虫標本の収蔵数では世界最大規模のパリ国立自然史博物館に訪れてみるのも良い。巨大な博物館の建築には圧倒させられる。